外国人相続人の相続手続の大変さ

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相続 遺言_アイコン先日、ある遺産分割事件で協議がまとまりました。

 

被相続人の不動産の相続分は1人の相続人に譲渡し、被相続人の預金等は相続人で平等に分けるというものでした。

 

ところが、私の依頼者は外国人だったため、相続手続きは難航を極めました。

私の依頼者はもともと被相続人の兄であり日本人だったのですが、後に外国に帰化して外国籍になったのです。

 

相続のときには、本人確認の手段として、日本ではたいてい印鑑登録証を付けることでオーケーされます。

 

しかし、外国にはそもそも印鑑自体がなく、印鑑登録証など存在しません。

 

特に今回の事件では、兄は日本から帰化してしまっているため、日本大使館でも対応してくれません。

 

そこで、金融機関や法務局はとても対応に苦慮しました。

 

まず、銀行など金融機関は、たいていは融通を利かせてくれて、相続人中日本人1人の代表の形で預金払戻しに応じてくれました。

 

ただ、ある証券会社は頭が固くて、遺産分割協議書に英訳版をつけ(何の意味があるのか?)、サイン証明を付ける形を要求してきました。

 

ここでサイン証明とは、公証人の面前で本人が文書にサインし、それを見ている公証人が本人のサインに間違いないと証明を付ける制度です。

 

これが外国で本人確認に用いられる一般的な方法です。

 

こうやって、本人であることを証明して、これを付けることで金融機関は対応してもらえました。

 

ところが、法務局はそれだけでは済まなかった。

 

遺産分割協議書(今回の登記原因証書になるもの)にサイン証明をつけるのはもちろん、委任状にまでサイン証明をつけろと言ってきました。

 

さらに、以前の登記時と現在の住所が異なっているので、住所移転の証明書を提出せよ、と言ってきました。

 

外国では日本と違って住所移転は自由であって、住民票を作っている国は少ないです。

住所移転の証明書など存在しません。

 

そこで、住所移転の陳述書を書き、それにサイン証明を付ける形で住所移転を証明することにしました。

 

つまり、外国には本人や住所を公に証明する制度がないため、文書にサイン証明を付けることによって、その文書の内容の正当さを担保しようとするくらいしか手段がないのです。

 

本人が嘘をついていたらそれまでですが、それもやむを得ないと考えているのでしょう。

 

外国の制度と比較すると、日本は戸籍や住民票や印鑑登録証が簡単に取れて、信頼できる国だなあと思います。

 

(小倉)